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人的損害

(1) 総論

人的損害は、大きくは、傷害に対する賠償と、後遺障害に対する賠償ないし死亡に対する賠償に分けられます。
傷害に対する賠償とは、交通事故によって怪我をしたことにより生じた損害のうち、治癒ないし症状固定までに発生した損害です。そして、症状固定とは、医学上一般に認められた医療を行っても一進一退で、その医療効果が期待できなくなった場合をいいます。
これに対し、後遺障害に対する賠償とは、症状固定時に残存する後遺障害によって将来発生するであろう損害を、現在時点で賠償するものです。

(2) 3つの基準

人的損害の損害賠償額の算定においては、3つの基準が存在すると一般に言われます。それは、①自賠基準 ②任意基準 ③裁判基準 と呼ばれるものです。

①自賠基準とは、自賠責保険が、支払基準に基づき損害額を算定する際に用いられる計算方法で、3つの基準の中でもっとも低額となるのが通常です。

②任意基準とは、任意保険会社が賠償額として提示する際に用いられる計算方法です。

③裁判基準(弁護士基準と呼ぶ方もいます。)とは、実際に裁判をすれば、どのような判決が下されるか、という観点から計算されるもので、3つの基準の中でもっとも高額となるのが通常です。

もっとも、実際に賠償を受けられる金額は、必ずしも③の裁判基準がもっとも高額となるわけではありません。過失割合の程度によっては、①の自賠基準がもっとも高額となることもあります。この点は、過失割合の項目をご参照ください。

また、③裁判基準額は、本来的には実際に裁判をしなければ決まらないわけですから、裁判をしたらいくらになるかを予測できなければなりません。②任意基準と、③の裁判基準額がほとんど変わらない場合に、長い時間をかけて裁判をするメリットがあるのかは、慎重な判断が必要です。

(3) 具体的損害費目

これまでの裁判例上、賠償の対象となるとされている損害の主なものは、以下のようなものです。

① 治療費

必要かつ相当な範囲の治療費は、損害として賠償の対象となります。

② 付添看護費

症状の程度、ないし、被害者の年齢等の状況により、付添が必要であれば、入院中の付添費、通院時の付添費が、被害者本人の損害として賠償の対象となります。また、自宅においても付添が必要であり、実際に付添がされたのであれば、付添費が損害として賠償の対象となる可能性があります。
また、重篤な後遺障害が残存し、将来においても看護が必要と認められる場合には、将来必要となる看護費も損害の対象となります。

③ 雑費

入院中は、さまざまな費用が必要となりますので、入院雑費として、入院日数に応じた金額が賠償の対象とされるのが一般的です。
その他にも、治療に必要と認められる雑費が賠償の対象となります。

④ 通院交通費

入通院に際して必要となった費用が、必要かつ相当な範囲で賠償の対象となります。
もっとも、必要かつ相当な範囲ですから、軽傷で公共交通機関や自家用車でも通院できるにも関わらずタクシーを利用するなどということは認められません。
自家用車を利用した場合でも、ガソリン代を請求できますが、通院のみに要したガソリン代の実費を算定することは困難ですし、実費すべてを加害者に賠償させるのが妥当とは言えない場合もありえますので、実務上は、1キロメートルあたり15円として、病院までの距離に応じて算定されるのが一般的です。

⑤ 休業損害

事故により労働できなくなり、減収となった部分が賠償の対象となります。また、有給休暇を使ったため実際の減収がない場合でも、有給休暇の使用を強いられたことを損害として賠償を受けることができます。
また、家事労働者(主婦、主夫)の方でも、家事労働に従事しているわけですから、減収がなくとも、家事労働ができなかった場合には、休業損害の賠償を受けることができます。

⑥ 入通院慰謝料

怪我をして、入院・通院を強いられたことによる慰謝料です。
慰謝料とは、精神的損害を填補するためのものであり、精神的損害は人それぞれですから、実際には裁判所が裁量により定めない限り慰謝料金額は決まらないはずです。しかし、交通事故においては、過去の事例との対比から、入院・通院の期間及び症状によって、慰謝料額の目安が公刊物によって公表されており、裁判においてもその目安を参考として慰謝料額が決定されています。

⑦ 逸失利益

事故により後遺障害が残存してしまった場合、その後遺障害によって将来生じるであろう収入の減少分を、後遺障害逸失利益として賠償を受けることとなります。
その際には、
 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間
の計算によって、逸失利益の金額を決めることになります。

基礎収入
事故前の収入が基礎収入とされるのが一般的です。

労働能力喪失率
本来的には、被害者の職業、年齢、性別、後遺障害の部位・程度、事故前後の稼働状況などから、どの程度労働能力が喪失されたかを総合判断することとなりますが、実務的には、労災の基準に従って、後遺障害の等級ごとに喪失率を判断するのが通常です。もっとも、醜状障害や、脊柱変形障害など、高次の後遺障害等級に該当するものの、労働能力喪失率はさほど高くないか、労働能力の喪失が存在しないと判断されうる後遺障害も存在します。

労働能力喪失期間
症状固定日から67歳までとするのが通常です。また、高齢者の場合は、平均余命の2分の1とするのが通常です。
もっとも、軽易なむちうち傷害の場合は、後遺障害が残存していても、経時的に完治するものと考えられており、労働能力喪失期間は、後遺障害等級14級の場合で5年以下、後遺障害等級12級で10年以下とされるのが通常です。
なお、逸失利益は、将来の減収につき現時点で賠償を受けるものですから、現時点で将来分についても満額の賠償を受けると、運用により、将来分は実際の年間の補償額を上回ることになります。このような事態を避けるため、中間利息を控除するものとされ、計算の際は、労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数を乗じることになります。

・事故により不幸にも被害者が死亡してしまった場合には、将来得られるはずだった収入が全く得られなくなりますので、その賠償を受けることになります。もっとも、死亡により生活費が必要なくなりますので、その分は賠償の対象から差し引かれます。
その際には、
 基礎収入 × (1-生活費控除率) × 労働能力喪失期間
の計算によります。

⑧ 後遺障害慰謝料

後遺障害が残存したことによる慰謝料です。
後遺障害の等級に応じて、一定の基準が公刊物(日弁連交通事故相談センター東京支部発行「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」など)により公表されており、裁判実務上も概ねこの基準を参考に慰謝料額が決定されます。

⑨ 死亡慰謝料

死亡による慰謝料も、相続され、相続人が請求できるものと考えられています。

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