退職勧奨とは
「退職勧奨」とは、使用者が労働者に対して、労働契約の合意解約を申し込んだり、解約の申込みをするよう促したりする行為をいいます。たとえば、会社から「辞めてくれないか」と言われた場合のように、退職することを会社が勧めている場合です。
裁判例では、退職勧奨は、雇用関係にある者に対し、自発的な退職意思の形成を促すためになす事実行為に過ぎず、「被勧奨者は何らの拘束なしに自由に意思決定をなしうるのであり、いかなる場合にも勧奨行為に応じる義務はない」(鳥取地裁判決昭和61年12月4日)とされています。
したがって、退職勧奨を受けたとしても、退職するつもりがない場合には、きっぱりと断ることが重要です。
退職を断ったにもかかわらず、退職勧奨が続く場合には、弁護士が作成した内容証明郵便によって退職勧奨をやめるよう通知する方法が有効です。
退職届を出してしまった場合
裁判例では、会社に提出された退職届は、原則として合意解約の申込みと解されています。したがって、不本意ながら退職届を出してしまった場合でも、その退職届を合意解約の申込みと解釈できれば、使用者がその申込みを承諾するまでの間は撤回することができます。そして、退職届を撤回する場合には、退職届の最終的な決裁権限を有する者(人事部長など)が受理する前に、退職届を撤回する旨の意思表示を行う必要があります。
それでは、退職届の撤回ができない場合や撤回の意思表示が間に合わなかった場合には、どうすれば良いのでしょう?
たとえば、懲戒解雇事由がないにもかかわらず、「退職勧奨に応じなかったら懲戒解雇になる。懲戒解雇の場合には退職金も出ないぞ」などと言われて退職を迫られ、恐怖心から退職届を提出してしまったような場合には、退職を迫られた状況によっては、強迫による意思表示(民法96条)として、退職の意思表示を取り消せる場合があります。
また、解雇事由(又は懲戒解雇事由)がないのに、解雇(又は懲戒解雇)になると勘違いして退職の意思表示をしてしまった場合には、その意思表示は錯誤により無効(民法95条)だと主張できる場合もあります。
さらに、退職の意思表示の効力を争うことができない場合でも、使用者が行き過ぎた退職勧奨を行った場合には、労働者の精神的自由を侵害する行為として不法行為(民法709条)が成立することもあります。その場合には、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。
実際に退職の意思表示の取消しや無効が認められることは多いとは言えませんが、退職届をすでに出してしまった場合でも、退職の効力を争う余地がありますし、損害賠償請求が可能な場合もありますので、お早めに弁護士に相談されることをお勧めします。